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店舗DXの導入で目指す「売上改善にコミットした経営体質」

店舗DXとは

「店舗DX」という言葉を耳にする機会も増えてきましたが、意味について正しい理解をしていますか。本記事では「店舗DX」の定義から、どのように進めていくかをご紹介していきます。

DXとは

「店舗DX」の「DX」から説明します。「DX」とは「Digital Transformation」「デジタルトランスフォーメーション」のことです。経済産業省では次のように定義しています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

【引用:経済産業省 「「DX 推進指標」とそのガイダンス」より】

トランスフォーメーションとは変化のこと。つまり「DX」とは、デジタル技術を活用して製品やサービス、ビジネスモデルを変革することになります。単にデジタル化するのではなく、革新的なイノベーションをもたらすものを指します。経済産業省ではDX推進ガイドラインの制定など、DXの推進に尽力しています。

店舗DXとは

「店舗DX」とは「DX」を実店舗向けに特化したものを指します。店舗の形態によって多種多様にわたりますが、一例を紹介します。

企業が求めるコストダウンを実現するためのもの

  • 店舗内システムをスマートフォン1台に集約
  • ピークタイムを把握してスタッフの人数の最適化
  • セルフレジ導入によるスタッフの人数の軽減
  • POSシステムと連携した在庫管理

顧客のニーズに対応するもの

  • 不動産業界やインテリア業界で導入されているバーチャル店舗
  • 店舗の販売員によるオンライン接客
  • 注文時の接触を避け、時間の短縮になるモバイルオーダー
  • アプリ導入で実店舗で使えるクーポンの発行
  • キャッシュレス化の導入

店舗DXが進まない理由

コロナ禍の影響で店舗DXを取り入れたお店を見かけることも増えたと感じることも多いかもしれません。しかし、まだ一部の企業や店舗に過ぎません。店舗DXを取り入れた企業と、まだ何も取り入れていない企業との二極化している現状もあります。店舗DXが進められない企業にはどのような問題点があるのでしょうか。

危機感の低さ

「お隣のお店はいろんなものをデジタル化しててすごいね」そう思っても「じゃあうちもやろう」とは簡単にならないものです。現状に問題なく、日々の業務が続けていける。そこに危機感は生まれにくいものです。紙媒体を使い続けるリスクやDXによるコスト改善も、日々の業務に比べれば優先順位が低く、見直しをする機会がなかなか設けられません。

デジタル化の責任者の不在

大企業であってもDX推進担当部署がある企業はそこまで多くありません。規模の小さな店舗なら店長と従業員が数名ということもあるでしょう。ITに特化したデジタル化の責任者を置く余裕がないことも多いでしょう。

従業員の反発が予想される

店舗DXが導入されれば、従来の業務形態から変更することになります。「機械は苦手」という意識があるスタッフが多いことでDXが進めにくいという現実的な課題もあるかもしれません。

コストと工数

しかし、店舗DXを導入し、運用するにはコストがかかります。すでに以下のような理由により、経営環境は厳しい状態の店舗もあるでしょう。

  • 最低賃金の上昇
  • 人手不足
  • 人口減少によるマーケットの縮小
  • 大型店舗へ顧客の集中

また、コロナ禍によりさらに厳しい経営環境に置かれている店舗も多いかもしれません。

  • 営業時間の縮小
  • 外出人口の減少
  • 感染対策
  • ネット販売へ集中

店舗DXでどのような変革をするのか検討し、導入するまで工数(時間)もかかります。人手不足の現代、工数を捻出することは容易ではありません。店舗DXにはコストも工数もかけてでも店舗DXで変革したい、という強い意思が必要です。

何から始めればいいのかわからない

失敗しない店舗DXにはいくつか押さえておくべきポイントがあります。

1. 正確な現状把握

「今一番困っていることは何か」「何を変えたいか」最初は漠然としたものから始まるかもしれませんが、突き詰めて課題を明確にすることです。

2. 明確なビジョンを持つ

例えばキャッシュレス決済を導入したいとします。

  • キャッシュレス決済を使用する客はどのくらいいるのか
  • クレジットカードや交通系電子マネー、QRコード決済どれを導入するのか
  • 現金の時と比べて処理速度は速くなるのか
  • 管理が楽になるのか
  • 顧客満足度が上がるのか
  • 運用は出来るのか

考えられることは無限にも思えるほどたくさんあります。漠然としたビジョンではなく、事細かに描いたビジョンを持ちましょう。

現在(1.正確な現状把握)と未来(2.明確なビジョンを持つ)を念頭に置いてシナリオ設計をすると良いでしょう。

3. 情報共有

人は変革を好まないこともあります。

  • なぜそれを行うのか
  • どのように変わるのか

従業員には詳細を説明し、理解してもらう必要があります。

4. 責任者の意識

責任者はコミットする強い意識が重要です。変革を好まない従業員もいます。しっかりと責任者はコミットすることで、トップダウンによる店舗DXの推進という勢いをつけることができます。課題が発生した際にも後押しをしてもらい、店舗DXを成功へつなげていくのです。

店舗DXを進めるメリット

店舗DXを進めるとどんなメリットがあるのでしょうか?

販促施策(VMDやサイネージ、セール等)の評価・改善

VMDとは「visual merchandising」、マーチャンダイジング(商品化計画)をヴィジュアル(視覚的)に行うという意味です。

書店ではおすすめの売り場をPOPで飾ったり、アパレルショップではマネキンに服を着せたり。売りたい商品を見えやすく、手に取りたくなる環境を整えることは以前から行われています。POPの代わりにディスプレイをつけ、動画が流れている売り場もあります。化粧品コーナーやおもちゃ売り場など、これまで以上に目を引くVMDがあります。

デジタルサイネージ(電子看板)も増えてきました。駅の構内の広告や、大型店舗の案内板などにとどまらず、小売店舗にも導入しやすい安価なデジタルサイネージもあります。

デジタルになることで、これまで以上に目を引いたり、じっくり見てもらったりと商品が購入されるきっかけになるかもしれません。

専用アプリでクーポンを発行したり、アプリ会員限定セールも集客力を向上させるでしょう。

業務効率化、オペレーション改善

コロナ禍の影響で従業員と客の接点を減らすために、客席にタブレットを置いたセルフオーダーシステムを導入している店舗や、アプリによるモバイルオーダーを導入している店舗も増えてきました。

注文を受ける作業を削減でき、片付けなど他の作業に従業員の労力を使え、業務の効率化を図ることができます。そのため、オペレーションもより改善されます。

会計、在庫管理、受発注業務、従業員の勤怠管理などをタブレット1つに集約し、さらに業務を効率化することも可能です。

接客品質の向上

接客とは、顧客をもてなすことです。

店舗DXにより対人の接客の機会は減少するかもしれませんが、それ以上に客の要望に対応し、もてなすことができます。書店などで導入されている売り場検索機能では、売り場を地図で視覚的に確認することができます。

セルフオーダーシステムでは、聞き間違いによる注文ミスを防ぐことができます。

店舗の従業員はパートタイムで働いている方やアルバイトの方も多く、就業して間もない場合には業務知識も浅く、十分な接客が出来ないこともあります。

そのような属人化してしまいやすい接客業務も、店舗DXで接客品質は向上し、どの客にも統一された接客品質を保証できます。

在庫管理・発注管理の最適化

必要な分を発注しているつもりでも、在庫が尽きてしまわないようと心配しすぎて気が付いたら在庫過多に。そんな店舗もあるかと思います。

適切な発注・在庫管理というのはとても難しいです。

しかし、今では在庫管理・発注管理などを統一したパッケージもあります。

  • 天気予報と連動して、天候に左右されがちな商品の発注の増減
  • 運動会や花火大会など、近隣でのイベントに対応した発注の増加
  • 賞味期限が近くなった商品のピックアップ
  • 季節による売れ筋商品の把握
  • SNSでバズり、爆発的に需要が伸びた商品に対するアラート

人為的作業では複雑だった管理もシステムに任せることで最適化を図ることができます。

デメリット

店舗DXにはメリットがたくさんあります。しかし、費用以外にもデメリットがあります。

目標を定めるのが難しい

店舗DXを導入するということは、トランスフォーメーション、変革を行うことになります。しかし長く同じ業界や業種に携わることで生まれる固定概念や先入観を打ち破らない限り、変革は難しいです。

これからの自社はどうありたいか。自社の未来のありたい姿から逆算して実現手段を考える「バックキャスティング」も一つの方法かもしれません。

明確なビジョンを持ち、その着地点となる目標を定めることは非常に難しいです。

すでに店舗DXを導入した企業でもその目標は百人百様です。自社だからこそできる未来像を描いてください。

まとめ

「DX」とは「デジタルトランスフォーメーション」、デジタル技術を活用して製品やサービス、ビジネスモデルを変革することです。

「店舗DX」とは「DX」を小売業に特化したものを指します。店舗DXには販促施策の改善や業務の効率化などメリットはたくさんあります。

目標を定めるのは難しいですが、店舗DXで新しい変革を検討してみてはいかがでしょうか。

出典

DX定義:
https://www.jimga.or.jp/files/news/jimga/200909_meti_guidance.pdf
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004-3.pdf

DX推進ガイドライン:
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/dx/dx_guideline.pdf